韓国原子力発電所の現状

-民家と「共存」する釜山広域市・古里原発を中心に-

岡田 卓己(おかだ たかし:啓明文化大学教員)


韓国の原子力発電所は、現在稼働中22基で総電力消費量の45%を占め、設備利用率は約95%であり、フランスに次ぐ世界第2位の原発密集国である。

韓国の原発の所在地
東海岸(日本海/東海側)では北から南へ、蔚珍(울진 ウルチン:慶尚北道蔚珍郡)、 月城(월성 ウォルソン:慶尚北道慶州市)、古里(고리 コリ:釜山広域市機張郡)の3カ所
西海岸では、霊光(영광 ヨンガン:全羅南道霊光郡)の1カ所

現在、稼働中の原発
東海岸16基(蔚珍1~6号機、月城1~4号機、古里1~4号機、新古里1~2号機)。
西海岸6基(霊光1~6号機)で、全22基中16基が日本海/東海側に集中している。

建設中・試運転中の原発
新月城1号機(2012、試運転中)2号機(2013年、試運転中)、 新古里3号機(2013年、試運転中)4号機(2014年、建設中)の4基

2021年までに計画されている原発
新蔚珍1~4号機、新古里5~6号基の6基

つまり、2021年には全32基が稼働し、 日本海/東海側に蔚珍10基、月城6基、古里10基の 26基が集中して稼働することになる(西海岸は霊光6基で変わらず)。 そして、世界1の原発密集国になる。

※ 以上、 ウィキペディア日本語版「韓国の原子力発電所」 を参考にした。

ちなみに、日本の日本海/東海側の原発は、 玄海4基、島根2基、もんじゅ1基、高浜4基、大飯4基、美浜3基、敦賀2基、 志賀2基、柏崎刈羽7基、泊3基の32基であるので、 日本と韓国だけでも、日本海/東海が原発の大密集地域で あることが容易に理解できる。

ウィキペディア日本語版「日本の原子力発電所」 を参考にした。


11月6日、日本から11月13日開催の「さよなら原発 福岡1万人集会」に向け、 日本と韓国の脱原発運動での連帯を強めようと、 企画の中心者・青柳行伸さんら3名が訪韓した。 そして7日朝、釜山環境運動連合の皆さんの案内で、古里(コリ)原発へと向かった。 古里原発は、人口約341万人の釜山広域市の機張(キチャン)郡にあり、 釜山駅からは約40Km、海水浴場で有名な海雲台(ヘウンデ)からは 25Kmほどのところにある。 さらに、人口約110万人の蔚山(ウルサン)広域市の中心街までも25Kmほどである。 そこに現在、古里原発4基、新古里原発2基が稼働している。

古里原発1号機の稼働は1978年4月、韓国で初めて稼働した商業用原発であり、 30年の設計寿命が過ぎ、2007年6月に運用期間満了で稼動が中断、 2008年1月17日に政府の承認を受け、さらに10年間稼動する計画で再稼働させた。 大事故を起こした福島第一原発1号機と同様である。 再稼働させた1号機は、今年4月12日にも、電気系統の故障で運転が一時停止した。 韓国原子力安全技術院の「原子力発電所事故・故障発生資料」によれば、 古里1号機では商業運転を始めてから、昨年までに計127回、年間平均3.84件も 事故・故障が発生しており、韓国で最も事故・故障の多い老朽原発である。 また4月19日には、古里4号機も感電事故で主電源が切れ非常電源によって 稼働させた。このとき、作業員2名が負傷するという事故が起きている。

※ ハンギョレ・サランバンとハンギョレ新聞の記事を参照。
http://blog.livedoor.jp/hangyoreh/archives/1462701.html
原文 http://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/472777.html
http://blog.livedoor.jp/hangyoreh/archives/1463349.html
原文 http://www.hani.co.kr/arti/society/environment/472938.html
http://blog.livedoor.jp/hangyoreh/archives/1467249.html
原文 http://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/473905.html


車で古里に近づくと、古里原発の南の海岸から全貌がよく見える。

南の海岸から見た古里原発の全景


【写真1】南の海岸から見た古里原発の全景
津波に対して、ほぼ完全に無防備。
写真左には、民家が広がっている。
(写真をクリックすると、大きい写真が見られます)


朝9時過ぎ、古里原発のゲート前に到着。守衛がゲートに向かっての 写真撮影を禁止する。

古里原発ゲート前

【写真2 参考資料】
古里原発ゲート前。
古里原発の相次ぐ事故の後、稼働の停止を求める市民たち。
ゲートには「韓国水力原子力(株)」。
市民の横断幕には
「核の危険のない、平和な世の中のための共同連帯
『私たちは皆、核発電所30Km以内に住んでいます』」
と書かれている。
(写真はハンギョレ・サランバンより)


ゲートのすぐ右横には、「古里追憶碑」が建立されており、 石碑の裏には古里村の歴史と原発建設で移転させられた人々のことが 記載されている。

古里追憶碑の裏面




【写真3】 古里追憶碑の裏面。
この追憶碑に隠れたすぐ裏が、古里原発のゲート。


それによると、148戸・162世帯・1250名が、1969年4月から9月の間に 強制移転させられたことが分かる。 さらに、石碑の裏の金網越しには、多くの民家が見えるではないか。 これには、本当に驚いた。

民家と「共存」



【写真4】ゲート横の「古里追憶碑」と、すぐ裏金網越しに見える民家。


なぜ、朴正熙政権はわざわざ人の住んでいる漁村に、 韓国初の原発を建てたのだろうか。 原発用地の住民は退去させ、それ以外の住民はそのまま放置したまま。 はたして、原発のすぐ側に住んでいる方々は、不安を感じないのだろうか。 多分、補償がなく、引っ越しをしたくてもできないのだろう。 ぜひ一度、住民の方々のお話を聞きたいと思った。 すぐにでも、古里原発は停止しなければならない。 韓国で最も危険な原発と民家が「共存」している現実。 そして、原発の危険性について、多くの韓国人の認識がどれほどなのかも考えさせられ、 この現実に鳥肌が立った。 そして、フクシマを経験した私たち日本に住む者全体の原発に対する認識はどうなのかとも、 深く考えさせられた。


古里原発の隣、新古里原発に車で移動する。 1・2号機はすでに稼働中であるが、それは車内から見た。 建設中の3・4号機は道路から間近にみえる。

新古里3・4号機




【写真5】建設中の3・4号機

写真の右手前が3号機・後ろが4号機だろう。 さらに、遠くには(写真中央)には、地ならしをした土地がある。 5・6号機の用地だろうか。



今回の、古里原発視察は、本当に驚く事ばかりだった。

第1に、韓国で年間平均事故件数が一番多い、最も危険な原発と民家との「共存」。
(放射能漏れの大事故が起きたら住民は助からない。 日常的にも継続して被曝している可能性は大きい)

第2に、計画を含めると古里・新古里で併せて10基の原発という、一カ所集中。
(フクシマのように、複数の原発が同時に大事故を起こす可能性が高い)

第3に、古里は釜山の中心街から約40Km、蔚山の中心街までも約25Km。
(古里は釜山広域市、数キロ北へ行けば蔚山広域市。 福島第一原発なみの事故が起きたら、釜山・蔚山市だけで450万人以上の大避難。 はたしてこれは可能なのだろうか)

本当に鳥肌の立つ現実だが、玄海原発も福岡市から50Km圏内であり設計寿命の過ぎた 日本でも一番危険な老朽原発である。 日本と韓国の現状は五十歩百歩ではないかとも思った。 日本海/東海側の日本の32基の原発、韓国の蔚珍・月城・古里の現在16基、 数年後には26基の原発、日本の原発でも韓国の原発でも、 どちらかが大事故を起こせば日本海/東海は死の海になるだろう。 事実、2007年7月16日の地震による柏崎刈羽原子力発電所事故では、緊急停止後、 3・4号機の冷却をする系統が動かず、大事故の直前で食い止めた。

ウィキペディア日本語版「柏崎刈羽原子力発電所」を参照。


さらに、韓国にはこんな計画もある。慶尚北道の蔚珍と慶州(月城)の間に 「東海岸原子力クラスター」を推進するという計画で、 原子力研究所・スマート試験原子炉・原子力技術標準院・原子力産業振興院と原子力病院、 原子力マイスター高校・グローバル原子力発電所技能労働力養成教育院などを 誘致・新設する内容である。 原発輸出の前哨基地として、2028年までに総工費13兆4595億ウォン(約1兆円)を かけるという。 この計画の核心的事業は、使用済核燃料の再処理工場建設である。 韓国でも日本と同様、使用済核燃料は飽和状態である。 そこで、原発の集中する東海岸に再処理工場を建設するのが最も効率的だとのことだ。 使用済核燃料の再処理は、アメリカでも日本でも中断・放棄されたほど危険な技術だ。

※ ハンギョレ・サランバンとハンギョレ新聞の記事を参照。
http://blog.livedoor.jp/hangyoreh/archives/1553554.html
原文 http://www.hani.co.kr/arti/society/area/502084.html


このように、脱原発問題はすでに日本・韓国の国内問題ではなく 、両国市民の安全に直接関係する、一国だけで解決できる問題ではない。 さらに、日本はフクシマ以降もベトナムへの原発輸出をあきらめず、 韓国はアラブ首長国連邦への輸出を皮切りに原発輸出を国策の中心として推進している。 チェルノブイリ・フクシマでの経験が生かされず、 原発事故によって人々を苦しみの中に突き落とし、自然を破壊する原発をアジアや 世界の国々に輸出することは直ちに中止しなければならない。 日本と韓国の市民は、脱原子力エネルギーの課題でも国際連帯をしなければならない。

こうした動きはすでに始まっている。 日本の「原発体制を問うキリスト者ネットワーク」は、日本がアメリカと協力して モンゴルに放射性廃棄物を埋めようとしたことをきっかけに、モンゴル-韓国-日本の ネットワーク作りを推進し、10月末から11月初めまでモンゴル、韓国を訪問した。 11月11日には、韓国の「脱核エネルギー教授の会」の創立集会で3カ国同時の 記者会見・インターネット中継を行った。 また、「さよなら原発 福岡1万人集会」を企画し、200日以上九州電力本社前で 座り込みを続けている方たちも、韓国の環境団体との幅広い交流を進めており、 11月13日の福岡集会では、「韓日100年平和市民ネットワーク」の李大洙運営委員長は 福岡の集会に参加・発言し、日本の多くの新聞で報道された。



最後に、「原子力の平和利用」ということだが、これは幻想であり、 原発は軍需産業であることもはっきりしてきた。 フクシマ以降、ドイツを初めとする脱核エネルギー政策を取ることを決めた国々に対し、 脱原発を頑なに拒否する国々は、 核兵器保有国(アメリカ・ロシア・フランス・イギリス・中国・インド・パキスタン・ 北朝鮮・イスラエル?など)であったり、機会があれば核兵器を保有したい国々であろう。 日本の原子力発電所の推進も核兵器開発の野望と関係があったし、 今もその野望は日本の右派政治家の口から機会あるごとに発せられている。 さらに、なぜ韓国・朴正熙政権は1960年代後半から、 古里原子力発電所の建設を民家を追い出してまで強行したのだろうか。 私は、朴正熙政権が核兵器開発計画を持っていたことと深い関係があると思っている。

※ 「朴正熙 核兵器」などで、検索して下さい。